2013年3月11日、
東日本大震災から、2年の時が過ぎました。
震災で犠牲となった多くの方々への、哀悼の気持ちとともに、
今日は、手から手へ展の図録に寄せられた広松由希子さんの
「想いの種」全文をご紹介いたします。
この種が、いきいきとした芽をだすことを祈って。
「想いの種」
文:広松由希子 / Yukiko Hiromatsu
スロバキアに住む絵本作家、降矢奈々さんの呼びかけから始まっ
た「手から手へ展」が、10か月かけてヨーロッパ5か国を巡回し、
ついに日本へやってくる。日本巡回にあたって、さらに国内作家を
中心に声かけしたところ、趣旨に賛同し参加する絵本作家はヨー
ロッパ展の倍近い7か国、110人にふくらんだ。
日本展の副題は、「絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッ
セージ」。震災直後から、日本では被災地支援のチャリティー展な
どが各地で行われてきたが、この展示は、チャリティーが第一義に
あるのではない。最終的に作品の売上金は全額被災地に寄付される
が、まずは多くの人に展示を見て、立ち止まって、感じてほしい。
そして、ひとりひとりが考えたことを、できれば身近な人、大切
な人たちに伝えてほしい。
確固としたキュレーションはない。根っこはつながっていると
しても、メッセージはそれぞれの絵本作家の自由な表現のなかに
託されている。確かなことは、同じ星の上の作家たちが、3.11
後、同じ時代の空気を吸っている人たちに向けて、ここにメッセ
ージを送っているということ。
もうすぐ2年。 収拾のつかない人災、終息しない被災を抱えた
まま、 私たちは日常を送り始めている。 だが、身近で、ささや
かで、子どもたちの日常に寄り添い、 心に ゆっくり根を下ろす
「絵本」というものに取り組んできた大人たちは、考えずにはい
られなかったはずだ。
この災害をどのように子どもたちに伝え、被災した子どもにど
う寄り添っていけるのか。放射線に脅かされ、ひしひしと平和も
危ぶまれる情勢にあって、これからの日本の絵本は、どんな希望
を読者に語っていけるのか。希望とは、痛みを忘れて、むやみに
前向きになることではない。空疎な安心や安全ではなく、本当に
語るべきことばを探りたい。多くの作り手たちは、それぞれの方
法を模索しながら、自身の表現と真摯に向き合い続けている。ど
んな時代にあっても、絵本は「希望」を伝えるものだから。
そして絵本には、大きな「想像する力」がある。10年後、50年
後、100年後の子どもたちが暮らす世界を想像し、 考え、今なに
を手渡していくのか選びたい。子どもの未来を明るいほうへ変えて
いくこと。それは政府が悪い、企業が悪いと責めれば済むような単
純なものではなく、ひとりずつが想像を怠らず、内から変わらなく
てはならないと実感している。この絵本作家たちの展覧会には、想
像するための、気づきの種がちりばめられている。
展示を運営するのもまた、それぞれが仕事を抱えた子どもの
本の作家、翻訳家、編集者、書店員などのボランティアである。
手から手へチラシを渡し、口から口へ趣旨を伝え、たくさんの
人たちが協力の手を差し伸べてくれたから、この展示は実現す
る。ブラチスラバのBIBIANAやボローニャ・チルドレンズ・ブッ
クフェアの事務局をはじめ 、日本の出版社や印刷所、 美術館、
ギャラリー、 絵本が好きで 活動に賛同してくれた多くの人の手
に支えられて動き出す。そして各展示会場で、その周りで、手か
ら手へ、更に動きが広がっていくことを願っている。
FROM HAND TO HAND
手から手へ 絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッセージ
日本巡回展 新図録 より
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